わが国は、第2次世界大戦以降、世界に類をみないほどの経済発展を遂げ、国際社会においても先進国の仲間入りを果たすに至っております。しかし、その一方で、国土・環境の破壊や少子高齢化の進展等のひずみも目立つようになってきており、更には、近時、建築や食品等の偽装、公務に従事する者のモラルの低下、肉親間における殺傷事件等々、国民の倫理観の荒廃には目を覆うばかりです。こうした実情に至った背景には、学校教育の荒廃のみならず、社会の変化や地域・家庭の教育力の低下等にも一因があることは確かであると思われます。子どもたちの豊かで健やかな心身をどのようにして育成していくのか、私たちは、今、真剣にこの問題に立ち向かわなければなりません。すなわち、国家の大本ともいうべき教育の立て直しが喫緊の課題であり、社会の変化や子どもたちの現状をふまえた学校教育の実践に取り組まなければなりません。
こうした問題意識の下で、平成18年12月には教育基本法が改正され、また、平成19年6月には学校教育法が改正されました。教育基本法1条は、「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」と学校教育の目的を高らかにうたっております。そして、改正された教育基本法、学校教育法の根底に流れる精神は、子どもたちの「生きる力」を育むということにあります。すなわち、基礎的な知識を身に付け、自ら学び、自ら考え、自ら判断し、自ら行動する資質・能力、そして、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心等の豊かな人間性、更には、たくましく生きるための健康や体力を育む教育が必要であります。
しかしながら、学校教育の現状をみると、消費者教育、環境教育、経済教育、金融教育、情報教育等々、社会において子どもたちの「生きる力」を育むための教育はあまりにも多く、子どもたちにとって消化不良の状況にあるのではないかと思われます。いずれの教育も子どもたちにとって重要であることは言うまでもありませんが、そうした教育の大前提として、社会の一構成員として身に付けておかなければならない「法教育」、倫理観に基礎づけられた「法教育」を実践することが必要・不可欠ではないかと思われるのであります。従来、主として大学や司法研修所で行われてきた法学教育や法曹教育、すなわち法律の教育ではなく、一人ひとりが社会を構成する一員として、他人を尊重しながら、自らルールを策定し、策定されたルールを守るなどといった基本的なことを教育することが必要・不可欠ではないかと思われます。
こうした認識の下に、法教育の核心部分について研究するとともに、海外主要国における法教育の実践例やわが国の小学校・中学校・高等学校における実践例を収集してデータベースを構築し、また、法教育実践のための教材開発や教員研修を行い、更には、地域社会等における法教育を実践するために講師を派遣するなど、法教育実践のための専門機関が必要であります。また、裁判員制度等、国民の司法参加を担保するという司法制度改革の実現のために、法情報に、国民一人ひとりが「容易にアクセス」できるような仕組みづくりを通して、活字化された情報のみならず、現代の情報社会の進展に合わせたような情報の提供のあり方についても検討し、開発することが必要であります。
このような目的の下に、特定非営利活動法人法教育支援センターを設立するものであります。
平成21年7月